交通事故重要裁判例

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最近の交通事故重要裁判例を紹介します。
といっても私の備忘的なもので、要旨をごく簡単にまとめたにとどまります。
判時は判例時報、判タは判例タイムズ、自保は自保ジャーナル、交民は交通事故民事裁判例集の略です。

H27の裁判例 1~10

1 大阪地裁H27.1.13(自保1945)
若年者の逸失利益の算定においては,賃金センサスが用いられることが多いのですが,非正規労働者の割合や結婚でいったん退職する人がいることなどから,男女の平均賃金には大きな差があります。したがって本件のような女子学生の死亡事故などにおいては,女子の平均賃金(H25全年齢約354万円)と男女計の平均賃金(同約469万円)のいずれをとるかが問題になります。いずれによっても男子(同約524万円)より低いのですが,これらのアンバランスを調整する機能を果たすのが生活費控除です。多くの裁判例では,男子単身者は50%とされているのに対し,女子は30%とされています。524×0.5=262,354×0.7≒248ですから,性による差が是正されることになります。本判決は基礎収入を男女計とし,生活費控除率を45%としました。上の例では469×0.55≒258万円となり,独身男子とほぼ同じとなります。裁判所の工夫でしょうが,そもそも生活費控除率が(独身)男女で異なるのは合理的でしょうか。収入が多い方が必要な生活費に費やす割合は低くなる傾向はあるでしょうが,男の方が無駄遣いするとはいえません。この点も含めて,生活費控除については問題があると思います。
より問題なのは,被告は「短大卒女子平均賃金ととるなら生活費控除30%は争わない」と主張しており,それによったほうが全労働者で45%控除するより逸失利益は高額になる(男女計をとったためにかえって低額になった)ことです。原告代理人としては注意が必要です。
2 横浜地裁H27.1.22判決(自保1944)
事前認定で左下肢長管骨変形12級,左踵部の疼痛等12級,左下肢醜状12級相当,睡眠障害等14級の併合11級認定。自賠責等級表の「備考6」は,各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であっても,各級の後遺障害に相当するものは,当該等級の後遺障害として取り扱うべきものとしています。判決はこの考え方によって,原告の左下肢荷重障害は,常に硬性舗装具を必要とする歩行障害をもたらす点で動揺関節の後遺障害(常に硬性補装具を必要とするものは8級相当)と同様といえるから,8級に相当する機能障害と認められるとしました(他の左下肢の障害はこれで評価済み 醜状障害と併合して併合7級)。自賠責の認定基準を裁判所流に使って,実態に即した結論を導いたといえます。
3 横浜地裁H27.1.29判決(自保1942)
自賠責7級(高次脳機能障害)の認定を受けた事故時17歳の女子被害者は,事故後に4年生大学に進学し,標準以上の成績を修めています。被告はこの点をとらえ,労働能力喪失率は35%(9級相当)か14%(12級相当)に過ぎないと主張しました。しかし,保護的な環境である学校に通えるからといって,卒業後に働けるとは限りません。判決のいうように「学業と労働において,求められる資質が大きく異なる」のです。判決は,「学生としては標準以上の成績を修められたとしても,就労すれば他の労働者との協同を必要とすることが多いため,上記のような認知障害等(注:易疲労性,記憶障害,遂行機能障害,情動障害)が就労環境に適応する能力を阻害し,就職や就労継続に支障を来す蓋然性は高いというべきである」として7級相当56%の労働能力喪失率を認めました。「就労すれば他の労働者との協同を必要とする」という点がポイントです。
4 東京地裁H27.1.30判決(自保1943)
外貌醜状は労働能力喪失率が争われます。7級高次脳機能障害障害と12級顔面醜状で併合6級の事前認定を受けた45歳男性会社員について,被告は醜状は労働能力に影響しない,事故の2か月半後に復職しその後約2年間はほとんど減収がなかったとして,喪失率は30%が相当と主張しました。しかし裁判所は,原告はその後退職し,再就職先も退職して三度就職したが73%の減収となっていること,たびたび「その傷はどうしたのか」と尋ねられるなど人目が気になり,気持ちが消極的になることが認められるから醜状も労働能力に影響を与えているとして,喪失率67%を認めました。判決がいうように「(減収の)事実は,原告の労働能力喪失率を考える上で極めて重要な事実」です。なお,事故が等級表改訂の前だったため,原告は,同程度の醜状について女子に比べて男子が低い等級(喪失率)しか認められないことは憲法14条違反だと主張しましたが,裁判所は違憲でないことは明らかであるとして退けました。もっとも後遺障害慰謝料は,6級の赤い本基準1180万円をかなり上回る1450万円としました。醜状が7級なら併合5級で1400万円が赤い本基準ですから,ここで調整したのでしょう。
5 東京地裁H27.2.13判決(自保1944)
これも外貌醜状の労働能力喪失が問題になった,自賠責の認定は9級醜状,12級手関節機能障害,12級膝関節痛等,併合8級の40歳男子会社員のケースです。問題は復職後減収がない(むしろ増加している)こと。しかし,関節機能障害と疼痛は現に仕事に影響しており,営業職であるのに線状痕が顔の目立つ位置にあるうえ,これらの影響で人事評価は低下して昇給における不利益は顕在化しています(原告は解雇の危険さえ感じている)。裁判所は20%の労働能力喪失率(醜状がなければ併合11級で喪失率表によれば20%)を認めましたが,人事評価の低下と昇給の不利益に加えて,原告本人質問の際に線状痕(同じ9級でも目立たないこともある)を確認し,仕事への影響があると判断したのではないでしょうか。
6 東京地裁H27.2.26(自保1950)
交通事故によってうつ病に罹患したという事案では,必ずと言っていいほど事故との相当因果関係と素因減額が問題になります。逆突事故→手指のしびれ→脳神経外科医の仕事への復帰の不安→うつ状態という経過をたどった被害者(自賠責では非器質性精神障害として12級認定)について,裁判所は事故とうつ病発症の因果関係を認めました(12級認定)。仕事の内容と受傷後の経過(入院中に抑うつ状態となり退院後も継続)がポイントです。被告は素因減額(心因性減額)を主張しましたが,脳神経外科医である原告にとって右手指の自覚症状は職業生活を左右しかねないものであったこと等から否定されています。逸失利益は原告主張の10年間の限度で認めました。
原告は脊髄損傷,上肢末梢神経障害等も主張しましたが,自覚症状とMRI所見との不整合,症状の推移等から否定されています。
7 最高裁H27.3.4判決(自保1938)
重要な判例変更です。最判H16.12.20については批判も多く,H22年の2件の最判(9月13日,10月15日)との整合性にも疑問が呈されていました。最高裁は,労災保険法に基づき支給された遺族補償年金は,「労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失を填補することを目的とするものであって,その填補の対象とする損害は,被害者の死亡による逸失利益等の消極損害と同性質であり,かつ相互補完性があるものと解される。他方,損害の元本に対する遅延損害金に係る債権は,飽くまでも債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であるから,遅延損害金を債務者に支払わせることとしている目的は,遺族補償年金の目的とは明らかに異なるものであって,遺族補償年金による填補の対象となる損害が,遅延損害金と同性質であるということも,相互補完性があるということもできない」として,支給を受けまたは受けることが確定した遺族補償年金は,「その填補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する逸失利益の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきもの」として,遅延損害金への充当を否定しました。
さらに最高裁は,支給を受けまたは受けることが確定していた遺族補償年金は,「その制度の予定するところに従って支給され,又は支給されることが確定したものということができ,その他上記特段の事情もうかがわれないから,その填補の対象となる損害は不法行為の時に填補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが相当である」として,遅延損害金の発生をも否定しています。
第1の点については確かに性質は違うといえますが,だからといって論理的に第2の点についての結論が導かれるわけではありません。複雑な計算を避けるというのは実務にとって魅力ですが,遅延損害金の発生を肯定する余地も十分あると思います。この判決の射程が気になります。
8 さいたま地裁H26.3.20判決(自保1946)
自賠責保険における「加重」が問題となった事例です。脊髄損傷によって両下肢麻痺等の既存障害(自賠責では1級相当)を有する被害者が,車椅子で移動中に衝突されて頸椎捻挫の傷害を受けました。頚部痛が残存しましたが,被害者請求,紛争処理機構いずれにおいても,もともと神経系統の最上位等級である1級1号の既存障害があるのだから自賠法施行令の「加重」にあらたないとして,後遺障害は認められませんでした。原告は,就労して年500万円余りの収入を得ていたうえ,車椅子利用者の各種スポーツ競技に積極的に取り組んでいました(被告は,原告の上半身がスポーツによって鍛えられていたからこの事故でそのような症状がでるはずはないとまで主張)。
「加重」は「同一部位」において後遺障害の程度を加重した場合です。自賠責の手続では神経系統はどんなにいろいろ合わさっても1級より上はないのだから加重にはあたらないとしたのですが,裁判所は,既存障害はT9の支配領域にあたるのに対して本件事故による障害はC3~T2の支配領域にあたり支配領域が異なるから,「既存症状が本件症状の内容を重篤化させるなどして損害の発生に寄与しているとは認められない」として素因減額を否定するとともに,「同一部位」に着目し,本件は「同一部位」ではないとして14級神経症状の後遺障害を認めました。裁判所は自賠責の後遺障害認定基準には拘束されずに後遺症の程度を認定でき,そのため自賠責の認定システムでは制度上認められない後遺障害が裁判で認められることがあります。本件もその一例ですが,控訴審(東京高裁)の判断を知りたいところです。
9 東京地裁H27.3.31(自保1948)
これも事故後発症した非器質性精神障害の事案です。自転車で走行中にタクシーが開けたドアに衝突して転倒した被害者につき,自賠責の認定は頭痛・めまい等で14級で,非器質性精神障害としては認められませんでした。裁判所は,事故による非器質性精神障害である身体表現性障害に罹患したとして,因果関係を肯定しました。もっとも後遺障害の程度については,症状固定までに夫が仕事を休んだり母親が中国から来日しなくても済む状態であったこと,仕事も減収はあったものの固定後2年間同様の仕事を続けられたことから,14級にとどまるとしています。14級ということもあり素因減額は否定しました。
10 大阪地裁H27.4.22(自保1951)
CRPS・RSD等の疼痛障害と四肢の機能障害の関係が問題になりました。原告は,両下肢の骨折から,右下肢にカウザルギー,左下肢にRSDが発症し,2級後遺障害を残したと主張しました。自賠責は四肢の諸症状を全体としてRSDとして総合的に評価するのが妥当であるとして7級と認定し,異議申立に対しても,各機能障害を個別に評価して併合するとより低い等級(併合8級相当)になるとして退けています。裁判所は両下肢のカウザルギー,RSDをそれぞれ7級とし,両下肢についてそれぞれ下肢・足指の機能障害と同一系列として扱って上位等級である7級相当とし,それらと上肢・手指の機能障害(同一系列と扱い併合の方法と用いて8級相当)を併合して5級相当と認定しました。現在の介護状況に鑑み,日額5000円の将来介護費を認めています。
また,介護に追われて疲弊しているうえに介護のために堕胎せざるをえなくなったとして,妻の固有慰謝料を150万円認めていることも注目されます。悲惨な状況が裁判官に伝わったのでしょう。

H26の裁判例 1~10

1 東京地裁平成26年1月16日判決(自保1918)
自転車搭乗中の被害者が衝突により転倒し,自賠責では14級でしたが紛争処理機構では脳幹損傷で2級3号を認めました(かなり珍しいケースです)。裁判所は同機構の判断について,事故直後には四肢麻痺や筋力低下等が確認されていないにもかかわらず,脳幹損傷に起因する症状の出現までに4年近くかかるのは医学的に不自然であるから,外傷性脳幹損傷のみから現在の症状を説明することはできないとしました。そのうえで現在の症状は,「本件事故による外傷性脳幹損傷もしくは頸部に受けた外傷又は外傷性脳幹損傷及び頸部に受けた外傷」によりしびれ,頭重感,頸部痛,めまいなどの症状が発症し,既往の精神病ないしうつ病が兄との確執などから悪化したため,外出が困難になるとともにこれらの症状を重く感じて身体の活動性が低下し,リハビリの中断もあって廃用性症候群として筋力の低下を来したことにより発生したとして,相当因果関係を認めました。現在はほとんど寝たきりの状態で自立歩行もできず移動は車椅子(全介助)が必要であることから,障害等級2級3号に該当するとしましたが,症状が本件事故による外傷のみによって通常生じる後遺症よりきわめて重篤であることから,6割の素因減額をしています。
2 名古屋地裁平成26年1月22日判決(自保1919)
出合頭衝突により頸部痛,上肢痛,頭痛等を残す原告は,その症状が頸髄損傷に起因するとして3級3号の労災認定を受けましたが,裁判所は労災における地方労災医員の意見書は信用性に乏しいとして14級9号と認定しました。後遺症の内容について,原告は転倒の恐れがあるため自宅で過ごしている,たびたび失禁・失便がある,記憶力・理解力が減退していると主張しましたが,裁判所は,昼間一人で過ごしていること,自動車を所有し運転していること,婚姻し子を儲けていること,外出時もおむつ等を使用していないこと,本人尋問における応答は適切であること,バス釣りのトーナメントに出場し,遠出をして2.5~3㎏もあるバスを複数回釣り上げていること等から上記認定をしました。事故が比較的軽微であることや症状の経過が通常(受傷当日と急性期に強い症状が見られ,その後次第に軽快して症状固定に至る)と異なることも考慮されています。
なお,本件被害者の後遺症については,労災3級,自賠責14級のほか,身体障害(手帳)6級,障害厚生年金・障害基礎年金2級が認定されており,それぞれの認定間の「ぶれ」が目を引きます。
3 大阪地裁平成26年2月4日判決(自保1922)
自動二輪車を運転し停車中に乗用車に追突された被害者は,頸髄損傷の疑いで入通院しましたが,自賠責は,画像所見がなく客観的な神経学的所見もないとして両下肢筋力低下,脱力の症状について後遺障害非該当としました。原告は訴訟で,対麻痺の原因は転換性障害であり後遺障害等級1級6号(両下肢の機能全廃)に相当すると主張しました。
裁判所は,原告の足が現在やせ細り体重も大幅に減少しており,実際に下肢を使用していないことがうかがわれるとして詐病を否定し,転換性障害によって両下肢に麻痺が生じその機能が全廃したとして1級6号に相当するとしました。事故から転換性障害の診断まで長期間を経過していることから被告は因果関係を争いましたが,裁判所は,非器質性精神障害では発症まである程度の期間を経過することはありえないことではないし,それまでは麻痺の原因が器質的な傷害にあるとの観点からのものであったことを理由に退けています。非器質性精神障害に対する1級相当の認定は裁判所ならではです。もっとも例によって心因性の素因がかなり影響しているなどとして7割の素因減額をしています(1億3000万円余りの請求に対して認容額は450万円余り)。
4 福岡地裁平成26年2月13日判決(自保1920)
交通事故委員会の頼もしい後輩が獲得した判決です。追突事故による頸椎捻挫,腰椎捻挫で自賠責14級9号が認定されましたが,原告は椎間板ヘルニア発症による12級を主張しました。裁判所は本件事故によってヘルニアを発症したとは認められないとして14級を維持しました。しかし裁判所は,被害車両全損等から事故による衝撃は相当大きなものであったと認められること,直後から強い痛みがありその後も痛みが継続していることから,「通常のむち打ちの場合に比して,一定の調整をするのが相当である。」とし,労働能力喪失率を9%,喪失期間を10年と認定しています。私も常々言っていることですが,被害者の苦痛や不便を代弁すべき弁護士が,機械的に「14級だから5%・5年」とやってはいけません。我々は常に目の前の具体的事実から出発し,そこに戻るのです。
5 名古屋地裁平成26年2月13日判決(自保1922)
原告は追突事故で中心性頸髄損傷等の診断を受けましたが,自賠責はMRIで髄内輝度変化等が認められないことや神経学的所見の推移に照らし中心性頸髄損傷の他覚的所見なしとして,14級9号を認定しました。被告は頸髄損傷は特に争わないものの14級に該当すると主張しました。
裁判所は,鑑定結果や医師の意見書をふまえて,事故によってC5/6のヘルニアが悪化し頸髄圧迫が強まるとともに,C4/5の頸髄圧迫に対して外力が加わって頸髄が損傷して,両上下肢のしびれ等が発現したと認め,麻痺が軽微であるとして12級12号に該当すると認定しました。被告が主張した素因減額については,既存の脊柱管狭窄は疾患に該当するとしましたが,ヘルニアが悪化するなど事故による外力も相当に強いものであったこと,C5/6の頸髄損傷の可能性も否定できないこと,裁判所認定の症状固定時期を前提とすれば治療期間が事故前の疾患によって著しく長期化したとはいえないことから,減額は全損害について25%としました。中心性頸髄損傷は素因減額が問題になることが多く,難しい後遺症といえます。
6 東京地裁平成26年2月25日判決(自保1919)
MTBI(軽度外傷性脳損傷/軽傷頭部外傷)が問題となったケースです。原告は追突による脳損傷から味覚脱失と2級の高次脳機能障害を残したと主張しました。自賠責の後遺障害認定は受けていませんが,下肢機能障害で身体障害3級の認定(手帳交付)を受けています。裁判所は自賠責のH23報告書とWHOのMTBI臨床診断基準をもとに,事故の際に頭部を打ったと認められないこと,事故後警察に連絡し実況見分に立ち会うなど意識障害がないこと,脳の器質的損傷をわずかに疑う拡散テンソル画像以外に画像所見がなく,同画像所見のみでは脳損傷の有無等を確定的に示すことはできないこと等から,原告の主張を退けました。
腰仙椎間椎間板ヘルニア手術等についても,事故の衝撃が大きくないこと,腰椎椎間板ヘルニアの既往があることことから,事故との因果関係を否定しました。
7 横浜地裁川崎支部平成26年2月28日判決(自保1921)
脳挫傷等による高次脳機能障害について自賠責で5級(併合4級)の認定を受けた原告(事故時18歳男子)について,裁判所は高次脳7級(併合6級)にランクダウンして認定しました。理由は,事故後障害者枠で就職できていること,異性との交際しているなど一定のコミュニケーションが可能であること,一人暮らしの準備をしていることなどです。私の経験でも,高次脳機能障害5級で継続的に一般就労できた被害者はこれまでいません。もっとも,見かけが健常者と変わらないため就職ができても,じきに問題が発生して辞めさせられるという事例が極めて多く,「就職できたから障害が軽い」とは決して言えません。なお,異性と交際していることを考慮している点は一般化できないでしょう。
逸失利益の基礎年収については,大学進学の準備をしていたこと,通学していた高校の大学進学率が高いことから,大学進学の可能性が比較的髙かったものの,確定的とまではいえないとして,男子大学卒平均年収の9割(学歴計平均の約1割増し)の額をとっています。
8 名古屋地裁平成26年3月19日判決(自保1923)
8級の足関節機能障害と12級相当の下肢醜状で併合7級相当の後遺障害を残す19歳女子大生(キャバクラ勤務)が被害者です。醜状障害については被告(損保)側から労働能力には関係しないという主張がされ,裁判所も喪失率表どおりの労働能力喪失はなかなか認めてくれません。
本件では,現在のキャバクラ勤務は長く続けられず,本人も25歳を目途に辞めて将来は結婚して子をもうけたいと考えていること,関節機能障害のみでも一般的な就労や家事への制約が大きいことから,喪失率表どおり56%の労働能力喪失を認めました。ただし,現在の就労形態であるかぎり,原告の努力はあるものの,減収がないどころか平均賃金の2倍前後の収入を得ることが可能であり,キャバクラ勤務が継続する限り逸失利益を認めることは困難であるとし,症状固定後5年間を除いて平均賃金をもとに逸失利益を認めました。
9 東京地裁平成26年3月26日判決(自保1923)
ランニング中に自動車に衝突されて5級高次脳機能障害を負った原告の付添費等について,裁判所は入院付添費日額6500円,通院付添費同じく3300円,通院日以外の症状固定までの自宅介護費同じく5000円,将来介護費同じく2000円を認めました。入・通院付添費は赤い本どおりですが,症状固定日までの介護費が通院がある日が3300円,ない日が5000円という認定には違和感を覚えます。そもそも高次脳機能障害の場合は自宅での見守り,声掛け等の介護が必要な場合が多く,感情コントロールができない場合などは入院中より大変なこともありまず。目安としての基準は必要でしょうが,本人の状況と家族等の大変さについて具体的な立証が必要だと思います。いつも言うことですが,「基準」は立証を免除するものでも制限するものでもないはずです。
なお,3級はもちろん,5級でも見守り,声掛けが必要であるとして将来介護費用が認められることがあります。7級で認めた例もあります(もっともそもそも7級でいいのかという問題はありうるでしょう)。具体的な主張立証と,そのための丁寧な聞き取りや資料の精査が必要です。
10 大阪地裁平成26年3月26日判決(自保1924)
中心性脊髄損傷は,そもそも事故で脊髄損傷が生じているか,生じているとしてどの程度の後遺障害と評価すべきか,脊柱管狭窄等の既往症による素因減額を受けるか,などがしばしば争そわれます。本件では自賠責7級認定の中心性頸髄損傷について,車椅子生活を送っていることや手指に力が入らず物をつかめないことなどから,上肢につき軽度の麻痺,下肢につき中程度の麻痺を残すと認めて,「3級該当」と認めるのが相当であるとしました。損害論においては,税務申告をしておらず経費等が不明であること等から男子全年齢平均の8割を基礎収入として逸失利益を算定し,家族が車いす生活のための一定の段取りをしたり入浴に一部介助が必要であるが職業介護は不要として,日額1000円の将来介護費を認めました。被告の素因減額の主張に対しては,腰椎椎間板ヘルニアや変形性脊椎症,脊柱管狭窄症の既往症等があったが,事故前には症状が出ていなかったところ受傷を契機として症状が出て頸髄損傷等の治療中にそれらについての手術等も受けたことが認められるが,それらの既往症等は頸髄損傷を生じたことに「影響した可能性があるに止まり,その受傷や治療期間,後遺障害の内容程度に有意の影響を与えたと認めるに足りる的確な証拠はない」として素因減額を否定しました(一部の治療費は否認)。平成8年最判(OPLL判決)は,素因減額の可否は「加害行為前に疾患に伴う症状が発現していたかどうか」等には左右されないとしていますが,その後の素因減額を否定した裁判例では,事故前は無症状であったことを考慮したものが少なくありません。

H26の裁判例 11~20

11 東京地裁平成26年3月27日判決(自保1925)
覚せい剤精神病,アルコール依存症の治療のために入通院しており,生活保護を受給中の44歳の男性に死亡逸失利益は認められるでしょうか。被告は将来も就労の蓋然性なしと主張しましたが,裁判所は少なくとも事故の約3年前からの入通院期間中に覚せい剤等の違法薬物を使用したことはうかがわれず,事故前の約1年間については飲酒をしてトラブルになることはあったものの,その他の薬物依存の状態とまではいえず,事故の1ヶ月前の受診時には経過は順調であったことや,ダルク(薬物依存症リハビリ施設)の開設準備作業を手伝うなどしていたことに照らすと,事故当時は明日コール依存症,薬物依存症が相当程度回復してきていたとして,就労の蓋然性を認めました。ただし,逸失利益算定の基礎収入としては,男子学歴計全年齢平均賃金の50%を取りました。
なお,本件は社員の私有車両による帰宅中の事故ですが,判決は,被告は勤務時間等により公共交通機関を利用して帰宅することができず自家用車による通勤を選択せざるを得なかったとして,運転は被告会社(使用者)の業務と密接な関連性を有すると認めるのが相当であり,被告会社は必然的に自家用車通勤となることを認識しながら会社所有車を用意することなく被告に自家用車での通勤を認め,駐車場を用意しガソリン代を支給していたのだから,自家用車による通勤を積極的に認容していたとして,「本件事故は,被告が被告会社の職務の執行につき発生させた」として民法715条責任を認めました。
12 大阪地裁平成26年3月27日判決(自保1927)
醜状障害は逸失利益が認められにくい後遺障害で,逸失利益の認定は性別,年齢,職業等によって左右されます。19歳短大生の女性について裁判所は,症状固定時には卒業していたが無職であること,将来はウエディングプランナーなどの接客業を希望していたことを認定し,本件では選択する職業が制限される可能性があり,対人関係,社会生活への影響も考えられること,身体的な作業能力という意味での労働能力にはさほど影響しないと考えられることから,67歳まで20%の喪失率を認めました。なお,本件のような5㎝以上の線状痕の後遺障害等級は,以前(本件事故当時)は7級ですが,その後9級に変更されています。
ところで,被害者がすでに外貌が重要な要素である職業に就いていた場合は別です。名古屋地裁H26.5.23(自保1927)は,25歳女子モデルの14級の瘢痕について5年間14%の労働能力喪失を認めました。
13 名古屋高裁平成26年3月27日判決(自保1930)
シートベルトを着用していなかったために損害拡大させたなどとして,過失相殺がされるケースが増えています(最近は後席についても過失相殺がされることがあります)。本件の1審は,シートベルトをしていたとしても重大な結果が生じていた可能性が高いことなどから過失相殺を否定しましたが,本判決は「死亡原因である脳挫傷は,Aがシートベルトを装着せず,運転席から車外に放出されたことによって惹起されたものと認めるのが相当である。そして,・・・シートベルを装着していて車外に放出されなければ,Aに重大な外傷は生じず,その人的損害は相当程度限定的であったと推認されること」等から,15%の過失相殺を適用しました。
14 大阪地裁平成26年5月28日判決(自保1926)
裁判所は自賠責の後遺障害認定を尊重することが多いのですが,これに拘束されるものではなく,独自の認定(評価)をすることがあります。自賠責認定より高く認定することもありますが,より低く認定することが多いといえるでしょう。脳挫傷による高次脳機能障害について自賠責2級の認定を受けた被害者について,裁判所は7級と認めました。日常生活動作が自立するなど症状固定時よりかなり改善していることが理由です。
もっとも,裁判所が被告の主張に乗って,「小児の場合は,脳の可塑性が大きいため,成人の場合より回復が良好であり」と述べている点は問題です。かつてはそのように言われていましたが,現在では必ずしも小児の方が成人より予後が良好であるとはいえないとされています。たとえば「脳外傷の子どもたち」(M.ラッシュ他 明石書店)はそのような見解は誤りであるとしています。
15 最高裁平成26年6月26日決定(自保1934)
上告不受理決定です。原審(東京高裁)は,弁護士費用等担保特約について,「賠償義務者が被保険者に対して判決で認定された弁護士費用を支払った場合の弁護士費用の額と甲損保が既に支払った保険金の合計額が,被保険者が委任契約により弁護士に対して支払った費用の全額を超過する場合は,甲損保は,本件特約に基づく保険金の支払い義務がないことになる」とした東京地裁判決を維持していました。高裁は,「保険契約者が本件特約を締結した結果,これを締結していなかった場合より支払った保険料分だけ経済的な不利益を受けるのは不当である」等の控訴人の主張について,「本件特約が,被保険者において,賠償義務者から弁護士費用相当額の損害賠償金の支払を受けることができず,弁護士報酬額の自己負担を生じる場合のリスクを対象とするものであり,保険料はこのような保険の対価として定められるものであって,上記自己負担の範囲を超える保険金の支払を要するものではないことは,被保険者の損害を補填する損害保険としての性質に照らし,・・・本件特約の解釈上明らかである」として退けています。
16 名古屋地裁平成26年6月27日(自保1929)
5級高次脳機能障害,7級外貌醜状,10級複視等併合3級の事故時16歳でその後大学に進学している女子被害者の労働能力喪失率について,醜状は比較的軽度で現に不利益なしなどとして,90%を認定しました(5級は79%,併合4級は92%)。基礎収入は学歴計・男女計賃セを採用しています(大学・大学院卒女子だとより低くなります)。
将来介護費について,日常生活動作は自立しており一人で外出もできるが,注意障害、感情易変,抑うつなどのために必要に応じて日常生活上の動作や注意を促す程度の声かけ・見守りが必要であるとして,日額1000円を認めました。
17 大阪地裁平成26年6月27日(自保1931)
糖尿病でインスリン治療を受けている被害者が,事故当時低血糖による意識障害を起こした状態で加害車に衝突された事案で,被害者の過失相殺能力の有無が問題になりました。裁判所は,被害者は判断力が低下していたと推認されるものの,「他方で,無自覚性低血糖症は,低血糖状態を繰り返す患者に多いことが知られているところ,原告一郎は,本件事故前に低血糖症状を呈したことは1度もなかったこと,原告一郎は,・・・地点では,本件トラックの運転席側を向いて立っており,手を挙げてフラフラを踊るなどの不審な動作はもとより,右方に出てくるような素振りは見せていなかったことなどに鑑みると,本件当時,原告一郎が,無自覚性低血糖症を発症し,意識を消失するほど重篤な意識障害となり,事理弁識能力を全く欠いていたとまで認めることはできない」として45%の過失相殺をしました。
平均余命17年の被害者の将来治療費について,現在の治療費17万円余をもとに認定しました。被告らは,原告は現在社会保障給付等により治療費を全く負担しておらず今後も負担しない蓋然性があると主張しましたが,その蓋然性が高いとまではいえないとして退けられています。あわせて将来介護費が2日に1回・日額6000円で認められました。
18 東京地裁平成26年7月11日判決(自保1932)
追突によるむち打ちの治療のために256回も接骨院等で施術を受けた(病院への通院は9日間)原告の治療費が問題になりました。柔道整復師等による施術については,損保から疑いの目で見られることが少なくありません。本件では,施術の結果徐々に症状が改善しているから施術の必要性は否定できないとされたものの,医師から接骨院等での施術を指示されておらず,むしろ数回にわたって整形外科の受診を勧められながら,513日間という長期間において合計256日,平均して約2日に1回を超える割合で接骨院等での施術を受けていたものであり,原告の傷害の内容及び程度に照らすと,これらの施術の全てが必要な施術であったと認めることはできないとして,施術費の2分の1(約49万円)に限って損害と認めました。
19 大阪高裁平成26年7月30日判決(自保1929)
行政書士は法律事務を取り扱うことはできません。代理人としての交渉はもちろん法律相談を行うことも弁護士法違反です。ところが実際は,交通事故事件の法律相談や何と交渉までやっている行政書士が少なくありません。法律事務を扱えない行政書士に,自賠責の被害者請求の事務手続(そのための法的なアドバイスは不可)以外の交通事故事件への関わりを許してはなりません。迷惑をするのは交通事故の被害者です。大阪高裁は,1審に続き,行政書士に支払った相談費用を自分の自動車保険の弁護士費用等特約に請求した被害者の請求を退けました。行政書士は違法行為をして受け取った報酬を被害者に返還すべきです。
20 名古屋地裁平成26年8月21日判決(自保1932)
死亡被害者の相続人でもある原告らは,被害者の逸失利益について,中間利息控除の問題と原告らの希望を理由に定期金(毎年1回誕生日払い)で請求しました。定期金賠償は将来の支出額が不確定な介護費用等について認められることがありますが,死亡時に発生した損害賠償請求権の基礎事情に将来変動がない状態で相続する死亡逸失利益については認められない傾向です。本裁判例も逸失利益についての定期金賠償を否定しました。
さらに裁判所は,「定期金賠償を認めない場合に,原告から明示的に一時金としての請求がない中で,定期金として請求している部分を一時金に置き換え,結果として原告が請求した以上の一時金の支払を命じる認容判決を行うのは,被告に対する不意打ちとなることは否定できず,やはり処分権主義に反するものと思われる。したがって,本件において,定期金賠償を認めず,算定された総損害額が,原告らがもともと一括払いを求めた総額を超える場合であっても,その超過する部分について認容することはできないものと解される」としています。被害者の父である原告については,一時金請求額>定期金賠償を認めず算定された総損害額なので後者の限度で認容しましたが,母である原告については,一時金請求額<総損害額なので前者の限度で認容するとしました(請求の立て方を間違ったことになります)。

H26の裁判例21~30

21 東京地裁平成26年8月27日判決(自保1932)
醜状障害については,逸失利益が認められないことや,低い労働能力喪失率が認定されることがしばしばあります。裁判所は,6歳男児の足背部植皮術による瘢痕(14級)について「将来的に肢体の美観が就労に影響する職業に就く可能性は十分にある。・・・目立つ場所にあるとはいえないものの,服装如何によっては外部から見える場所にあることを考慮すれば,認定した限度で,後遺障害による就労の機会喪失及び就労上の不利益を受ける蓋然性がある」として,18歳から67歳まで5%の労働能力喪失(約295万円の逸失利益)を認めました。年齢が考慮されたものと思われます。かつては男子についてはより消極的な傾向がみられましたが,等級評価の男女差が解消されたこともあってか,最近は必ずしもそうではないようです。
22 神戸地裁平成26年9月24日判決(自保1935)
永住者でない(=在留期間が定められた)外国人被害者の逸失利益の算定では,将来も日本で働いているという前提に立てるかどうかが問題になります。本件で裁判所は,就労可能な在留資格(1年?)を持って就労(試用期間中)していた中国人について,67歳まで34年間の逸失利益を認めました。「日本で専門学校を経て…大学を卒業し,本件事故当時就労ビザを取得して就労していたこと,・・・(事故前月に)B会社に就職し,試用期間である3カ月を経過した後は月額20万円の給与を得る予定であったこと,・・・おじの経営する会社が日本の会社と取引があることもあり,将来的にも日本に居住し,おじの会社を手伝うなり,自分で会社を設立するなりし,日本において仕事を続ける予定であったこと,原告の妻も日本において・・・会社に勤務していること」などから,67歳まで少なくとも月額20万円の収入を得る蓋然性があったとしました。日本の社会との結びつきの程度がポイントです。
5級の高次脳機能障害(併合4級)について日額3000円の将来介護費を認めた点でも注目されますが,食事をしたことを忘れる,暴力を振るうことがある,一人で外出できないなど,そもそも5級でよかったのかという疑問がなきにしもあらず。
23 大阪地裁平成26年10月2日判決(自保1933)
同裁判所の上記6月27日判決の比較が興味深い裁判例です。平均余命14.37年の被害者の将来介護費について,「介護保険制度が,将来,現在と同じ制度設計及び水準で維持されるかどうかについて予測困難な面がないとはいえないが,少なくとも今後15年間については,現在のものに近い制度設計及び水準で維持されると推認できる」として「(原告が入居している)Fホームが同種の施設の中で利便性が高く,サービス全般が充実した施設であることを併せ考えると,原告が既にEホームやFホームに対して利用料等を支払ったこと,とりわけ,原告がFホームに入居するために,入居権利金及び入居一時金として1400万円を超える費用を支払ったことを考慮しても,原告の症状固定後の介護費用としては,症状固定後から14.37年にわたり,日額1万2000円とみるのが相当である」としました。Fホームの家賃,管理費用(水光熱費相当分を除く),介護サービス利用料全額及び施設利用料のうちの介護関係費用の合計は月額42万円で,介護サービス利用料を現在の自己負担額として算定した場合は月額16万円余りとなることが前提とされています。
原告が別途請求した,症状固定後に支出したFホームへの入居権利金,入居一時金等については将来介護費に含めて考慮するとしています。
24 東京地裁立川支部平成26年10月14日判決(自保1938)
高齢になれば誰でも持病の一つや二つあるものですが,高齢者被害事故では素因減額として問題になることが少なくありません。83歳の被害者は駐車場内で佇立中に後退してくる乗用車に衝突されて転倒し,脳内血腫を発症して自賠責2級1号の後遺障害を残しました。被告は高血圧症が被殻出血のリスクを高めたとして大幅な素因減額を主張。裁判所は,高血圧症という高血圧性脳内血腫のリスクファクターがあったところに事故による外力が契機となって急激な血圧上昇が起こり,脳内血腫を発症したとして,素因減額を肯定しましたが,事故前の血圧は安定しており,長年の投薬治療で血圧のコントロールができていたことを斟酌すると,被殻出血の主な原因は本件事故にあるとして減額は30%にとどめるとしました。事故前の状態からは被害者に酷なようにも思えますが,長年の高血圧によって血管が弱くなり,出血を起こしやすくなっていたのだろうと考えたのでしょう。
25 名古屋地裁平成26年10月15日判決(自保1936)
PTSDは争いになることが多い後遺障害です。とくに本件のような追突事故では,事故はいわば「不意打ち」であって外傷的な出来事(いわゆるA基準)という要件を欠くのではないか,という主張がしばしばなされます。裁判所は,本件は追突事故であること,傷害内容は比較的軽微で「生命を脅かされる驚異的体験」としては激烈なものではないこと,フラッシュバックも反復性や侵入性が顕著に認められるものではなく,回避の程度も強度ではないこと,覚醒の亢進の訴えはあるが,もともと不眠の原因となる精神的症状や精神疾患の既往症があり,心理的な感受性と覚醒の亢進による易怒性,集中困難,過度の警戒心や過剰な驚愕反応等の頑固な症状が明らかに認められるものでもないこと等から,PTSDとはいえないとしましたが,本件事故によって非器質性精神障害(14級)に罹患したとしました。労働能力喪失率を7%(喪失期間は10年)としたことが注目されますが,拒食症の罹患歴,事故前の抑うつ状態,事故後の統合失調症等の診断・治療から,原告の損害は本件事故のみによって通常発生する程度や範囲を超えているとして4割の素因減額をしました。労働能力喪失率とバランスをとったのでしょうか。
26 京都地裁平成26年10月31日判決(自保1939)
自賠責14級認定でしたが,原告は高次脳機能障害,右上下肢の運動機能障害等で併合4級を主張しました。裁判所は,数日以上の昏睡状態と画像所見を欠くことからびまん性軸索損傷を否定し,30分以内の意識消失等の診断基準を満たさないとして軽度外傷性脳損傷(MTBI)を否定しましたが,診断内容と症状から,9級の非器質性精神障害を認めました。非器質的精神障害は,発症及び症状の残存に,事故に直接関連する要因のほか,環境要因や個体側要因が関連しあう多因性の障害とされており,原告の症状の推移等に照らしても,現在の症状には,心因的要因等,事故以外の要因が関与していると認められるから素因減額が相当であるとして,30%を減額しました。「症状の推移」とは症状が増悪していることなどを指すのでしょう。自賠責14級を裁判所が救ったとも言えるかもしれませんが,簡単に素因減額を認めすぎている印象を受けます。
27 名古屋高裁平成26年11月20日判決(自保1938)
歩行中に後退してきた乗用車に衝突されて脳挫傷等を負い,自賠責で高次脳機能障害5級の認定を受けた被害者が,3級を主張して提訴しました。1審は自賠責どおり5級(労働能力喪失率は60%としました)と認定し,日額3000円の将来介護費を認めました。高裁は,意思疎通や同時処理の能力が低下し,怒りやすくなっているものの,家族が気をつけて接することで対応でき,日常生活に大きな支障は出ていないと認められること,軽易な労務に従事することが可能であるが,それを超えたフルタイムの労務に従事することが可能とは認められないことから,高次脳機能障害を7級としました。「高次脳機能障害整理表に基づく後遺障害等級基準」へのあてはめによる検証においても,1審とは異なる判断をしています。将来付添費は月額15000円としました。症状固定とされたころには職場復帰して事故前と同じ仕事についていたことを重視したものでしょうが,翌月にくも膜下出血で倒れたことが,事故による高次脳機能障害の評価をさらに難しくしたものと考えられます。なお,1審では否定した原告の過失も5%認めました。
28 東京地裁平成26年11月27日判決(自保1937)
重度障害の事案において,将来介護費はもっとも激しく争われる問題の一つです。どの程度の介護が必要かという問題だけでなく,招来の介護保険給付や自立支援給付等の公的給付をどう考えるかという問題もあります。被告は,施設介護については自己負担額を考慮して日額1000円が相当で,在宅介護についても日額2000円を超えないと主張しました。判決は,被告から将来介護費の支払を受けた場合は介護保険法により給付免責となるが,その場合でも現在と同様の介護給付を受けることは可能であることから,町から現在の事業者への支払額+自己負担額をもとに推計して,職業介護費を日額12000円としました。なお,総損害からの介護保険給付額の控除と過失相殺の先後という問題については,過失相殺前に総損害から控除する「相殺前控除説」がとられています。介護保険給付を行った町が独立当事者参加しています。
29 最高裁平成27年3月4日判決(自保1938)
ついに出ました。最高裁平成16年12月20日判決は判例変更です。死亡被害者の相続人は,16年判決を引いて,労災保険法の遺族補償年金は,損害賠償額の遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきであると主張しました。判決は,同年金は遺族の被扶養利益の喪失を填補することを目的とし,填補対象の損害は死亡逸失利益等の消極損害と同性質でがあり,かつ相互補完性があるのに対し,遅延損害金は履行遅滞を理由とする損害賠償債権であるから,債務者に支払わせる目的は同年金の目的と明らかに異なるものであって,填補対象となる損害が同性質であるとも相互補完性があるともいえないとして,損害賠償額の算定にあたり,同年金は逸失利益等の消極損害の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきものとしました。そのうえで,支給を受け,または支給を受けることが確定した同年金は,その予定するところに従って支給され,または支給されることが確定したものといえる等として,その填補の対象となる損害は不法行為の時に填補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をするとしました。
30 最高裁平成27年4月9日判決(自保1941)
11歳男子が蹴ったサッカーボールが校庭から飛び出し,それを避けようとした自動二輪車運転の被害者が転倒し,入院中に誤嚥性肺炎で死亡しました。遺族は男子の両親を訴え,1,2審は両親の賠償責任を認めました。最高裁は,事故態様について,友人らとともに,放課後児童に開放されていた校庭で,使用可能な状態で設置されていたゴールに向けてフリーキックの練習をしていたもので,このような行為自体は,ゴール後方に道路があることを考慮に入れても,校庭の日常的な使用方法として通常の行為である等とし,殊更道路に向けてボールを蹴った等の事情も伺われないとしました。そのうえで両親の監督義務について,責任能力のない未成年者の親権者は,その直接的な監視下にない子の行動について,人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があるが,本件行為は通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない等とし,両親は危険な行為に及ばないよう日頃から通常のしつけをしていたというのであり,子の本件行為について具体的に予見可能であったなどの特別の事情も伺われないとして,民法714条1項の監督義務者の義務違反はないとして,両親の賠償責任を否定しました。「校庭の日常的な使用方法として普通の行為」という点がポイントです。

H25の裁判例 1~10

1. 最高裁平成25年1月15日決定(上告不受理)(自保1894)
人身傷害保険約款は,故意に加えて「極めて重大な過失」を免責事由としています。信号無視をパトカーに発見されて逃走中,高速度(2審は73~75㎞/時と認定)でカーブを曲がりきれずに民家の塀に衝突して運転者が死亡しました。1審は「極めて重大な過失」に当たるとして免責とし,2審も「「極めて重大な過失」とは,通常人に要求される程度の相当の注意をしないでも,わずかの注意さえ払えば、たやすく結果を予見することができた場合であるのに,漫然とこれを見過ごしたような,ほとんど故意に等しい注意欠如の状態をいうと解すべきである」として免責を認めました。2審判決が指摘するように,本条項が故意と断定できないがその疑いが濃厚な事例における保険金請求を排除しようとしたものである以上,かなり限定的に解釈する必要があるでしょう。
2. 神戸地裁平成25年1月24日判決(自保1900)
原告が自動二輪車,衝突相手の被告が自転車という事案で,赤信号無視の被告に対して,青信号に従った原告の過失が15%とされました。相手が自転車であることが考慮されています。示談による免責を主張した被告の主張を,双方が保険によってカバーされないと誤信して締結された(実際は火災保険に個人賠償責任保険が付帯)もので動機の錯誤があり,その動機は少なくとも黙示的に表示されたと推認されること,錯誤は要素の錯誤にあたることから無効であるとした点も注目されます。
3. 東京地裁平成25年1月30日判決(自保1894)
将来介護費用は請求額を押し上げる大きな要素です。入院中の1級1号(完全片麻痺,高次脳機能障害)の被害者について,被告は,少なくとも今後5年間は入院が継続するものとして入院費用(月額約13万円)をもとに計算すべきであるとしました。判決は,「原告の子らは受入可能な施設を実際に探しており入居を申し込む施設が本件訴訟の帰趨に関わっていることが認められる」として,施設への転居の蓋然性を認め,将来の施設費用(月額28万円)に加えて入居一時金(1500万円)を損害として認定しました。
4. 東京地裁平成25年2月26日判決(自保1895)
追突によるむち打ち等の場合に,損害の発生・拡大に影響したとしてシートベルト不着用が被害者の過失と認定されることがありますが,本件は後部座席のシートベルト不着用のケースです。後部座席のシートベルト着用義務違反に対して,一般道では行政処分も反則金も課されませんが,着用していれば負傷しなかった,またはより軽傷ですんだというような場合は,過失相殺を加重される可能性があります。
5. 東京地裁平成25年3月7日判決(自保1897)
無自覚性低血糖症は,低血糖状態になっても警告症状がないまま意識障害におちいることがある病気で,道交法は免許の拒否ないし保留事由としています。患者である加害者は低血糖によるもうろう状態で死亡事故を発生させました。自賠法4条は,運行供用者責任については同法3条の規定によるほか「民法の規定による」としており,民法713条本文は責任無能力者の損害賠償責任を否定しています。判決は,民法713条は自賠法3条の運行供用者責任には適用されないとして同責任を認めました。物損については,713条が適用されるが但し書(「故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは,この限りでない」)によって責任を負うとしました。
6. 東京高裁H25年3月14日判決(自保1892)
H24の判例11の控訴審判決です。月額25万円の定期金賠償という一審の判断を維持しました。この判決の影響は大きいと思われます。福岡高裁H23.12.22判決(判時2151)は,定期金賠償を命じた一審判決を変更し一時金賠償を命じましたが,本件と異なり現に自宅介護をしている事案です。
7. 名古屋地裁平成25年3月19日判決(自保1898)
受傷時8歳の男児の高次脳機能障害(びまん性軸索損傷)について,判決は後遺障害を5級相当と認定しましたが,将来介護費(看視・声掛け)を日額3000円認めました。後遺障害等級表では,介護を要するとされるのは別表1の1級と2級のみですが,高次脳機能障害においては3級以下で将来の介護費用を認める裁判例が多くあります。日常生活動作(ADL)が自立し身体介護が不要であっても,声掛けや見守り等の看視的介護がなければ安全に日常生活や社会生活を送れないことはしばしばあります。労働能力が残っている(本件では21%残っているとされています)こととも矛盾しません。原告代理人の細やかな立証活動が必要です。なお,5級の高次脳機能障害について将来介護費を認めた裁判例には,名古屋地裁H23.9.16(日額4000円),千葉地裁H22.5.28(週額1万円),横浜地裁H19.3.29(日額2000円)等があります。
8. 東京地裁平成25年3月27日判決(自保1900)
追突により脳脊髄液減少症が生じたという原告の主張を,主張する頭痛が体位の変化により生じるものではないことなどを理由に退けました。その点はとくに目新しくありませんが,約8か月を隔てた二つの事故について共同不法行為(民719後段)を認めた点が注目されます。第2事故後の症状に与えた影響が,第2事故より第1事故の方が大きいことを理由にしています。
9. 宇都宮地裁平成25年4月24日判決(自保1897,判タ1391)
世間の耳目を集めた悲惨な事件です。大型クレーン車の運転手がてんかん発作を起こし,集団登校中の子どもたちが轢過されて亡くなりました。運転手とクレーン車の所有者であるその使用者の責任については争われず,同居する運転手の母親の責任が焦点でした。判決は,費用を出して免許を取得させ,自動車を与えたうえ,運転手がてんかん発作による交通事故を再三起こしても運転を続けさせ,クレーンの免許取得にも協力し,前夜抗てんかん薬を服用していないまま出勤することを知っていた等の事情から,母親の責任を認めました。報道では事案の特殊性は十分に伝えられていませんが,判決を読むと,きわめて特殊な事案であり,一般化できないことがわかります。
10. 横浜地裁平成25年5月27日(自保1906)
50代男性の死亡事故ですが,原告である妻,子,母親はいずれも相続放棄しています。妻と母は扶養逸失利益と固有慰謝料,子(すでに独立)は固有慰謝料を請求しました。損害賠償請求権がいったん被害者に発生し,それが相続されるという伝統的な考え(相続構成)を徹底すれば,放棄している以上遺族の請求は認められないということになりそうです。しかし判例は,慰謝料については遺族固有の慰謝料を認めており,逸失利益についても扶養利益の損害としてとらえて逸失利益を認めています(扶養構成)。裁判所は被害者の逸失利益の40%を妻の,15%を母親の扶養逸失利益と認定しました。「赤い本」基準では「一家の支柱」で被扶養者1名の場合の生活費控除率は40%,2人以上の場合は30%です。やや厳し目の認定に見えますが,妻にも収入(月額約15万円)があったこと,母親は年金受給者であり被害者からの援助は月額4~5万円であったことなどが考慮されているようです。

H25の裁判例 11~20

11. 東京地裁平成25年6月24日判決(自保1903)
事故で7級の高次脳機能障害を負って復職(その後3年8か月で退職)したホストについて,復職後退職までは売上,指名が上位の月もあることなどから労働能力喪失率は(12級並みの)14%と認定し,退職後67歳までは全年齢平均賃金をもとに56%と認定しました。ホスト退職までの基礎収入としては,事故前年の報酬の6割と認定しました。ホストには衣装,靴,理容・化粧品,顧客等との飲食費・プレゼントなどの交際接待費などの必要経費が,報酬の4割であったと認定しているためです。
12. 名古屋地裁平成25年6月28日判決(自保1904)
逸失利益は後遺障害等級に対応する労働能力喪失率(労働省労働基準局長通牒)をもとに計算されます。しかし実際には喪失率どおりの減収が生じているとは限りません。重い後遺症を負っても,公務員などの職種や本人の努力・雇用主の理解などによって事故前の収入が維持されていることもあります。損害概念の理解(差額説vs労働能力喪失説)にもかかわりますが,裁判例には喪失率どおりには認めないが一定程度の逸失利益は認めるというものが多く見られます。本判決も,1級(両下肢麻痺)の後遺症を負う公務員について,復職後も減収がないのは「本人の特別の努力によるもの」として定年まで20%,以後67歳まで100%の喪失率を適用しました。
13. 神戸地裁平成25年7月4日判決(自保1902)
11歳の男児による自転車加害事故で,男児の母親に約9500万円の支払が命じられた事件で,大きく報道されました。自転車は免許も車検もなく手軽な乗り物ですが,強制保険もありません。重大な結果(本件では植物状態)が生じた場合は加害者側,被害者側いずれにとっても深刻です。 中学生であれば本人に責任があり,親権者は責任を負わないとされることが多いのですが,その場合は被害者が泣き寝入りになる危険がより大きくなります。自転車に乗る場合にも保険加入が重要です。自転車専用の保険のほかにも,カードや火災保険に個人賠責保険が付いていることもあります。
14 福岡地裁平成25年7月4日判決(自保1922)
私が最も尊敬する弁護士が獲得された判決です。将来介護費用の定期金賠償は,遷延性意識障害などの場合に被告(損保側)がこれを求め,原告(被害者側)は一時払いを求めている場合にも認められるかという形で争われることが多いのですが,本件は事故時2歳の原告について原告側が定期金賠償を求め,被告は一時金を主張した事案です。裁判所は,原告の年齢に照らし,介護期間が相当長期に及ぶことが予想されることから,定期金賠償になじむとして,定期金賠償を命じました。一時金払いの際にとられる中間利息控除によって賠償額は大きく削られます。裁判所は当然のように中間利息控除を行い,多くの弁護士も疑問を持たずに従っていますが,経済的には不合理です(詳しくは他の文献等に譲りますが,控除は将来の利殖可能性を理由としますが,算定の基礎となる収入は現在の賃金水準に固定し,将来の賃金水準や物価・金利の変動は無視しています)。その不合理を緩和するために定期金賠償は有効な方法です。
15. 大阪地裁平成25年7月11日(自保1912)
被害者は鎖骨骨折等から肩にCRPS(複合性局所疼痛症候群)を遺し,自賠責12級認定を受けましたが5級相当のCRPS(RSD 反射性交感神経性ジストロフィー)を主張しました。裁判で参照されるCRPS,RSDの基準としては,①自賠責・労災基準,②ギボンズの診断基準(ギボンズのRSDスコア),③IASP(世界疼痛学会)の診断基準(臨床基準/研究基準),④厚労省のCRPS判定指標(臨床用/研究用),などがあります。①は,関節拘縮,骨萎縮,皮膚変化(皮膚温変化,萎縮)という慢性期の主要3症状がすべて認められる必要があり,かなり高いハードルで,このように診断基準が定まっていないことがCRPS・RSDがしばしば裁判で争われる一因です。
 判決は,CRPSは発生機序や病態について確立した見解がなく,診断基準も絶対的なものがないことなどから,「原告の症状がCRPSであるか否かということそれ自体を検討,判断することに積極的な意義はない」としています。そのうえで(感度に傾斜した)「臨床基準をそのまま使うことはできないにしても,研究基準のように除外診断(特異度)に一方的に傾斜した判断基準を設定することは,必要でも相当でもない」としました。本件については,「医学的に大多数の医師がCRPSと判断するかは必ずしも明らかでない」,「骨萎縮などの物理的な廃用性を伴っておらず,器質的な症状を前提とする上位等級の各障害と比較した場合,制限の程度や永続の蓋然性というところで,どうしても一定の差があるものと考えざるを得ない」として,「症状固定時における労働能力喪失率が12級13号より高く評価されうること,症状永続の蓋然性に疑問があり,就労年限時の労働能力喪失率が14%を大きく下回りうることの両方を織り込んだうえで,全体を平準化し,就労年限までの全期間について,平均14%の労働能力喪失が生じるものと認める」としました。 CRPSは難しい後遺症で,本裁判例においても裁判所の苦心が感じられますが,「控え目な損害算定」であるという印象は拭えません。
16. 岐阜地裁平成25年7月19日判決(自保1905)
18歳の被害者が父親所有車を運転して同い年の被告を迎えに行き,その後交代で運転して,無免許を承知で被告に運転させ助手席に同乗していました。被告は時速90km以上で運転し,ハンドル操作の誤りとアクセルとブレーキの踏み間違いで事故を起こし,被害者は車外に放出されて死亡。裁判所は,無免許を知りながら車両を貸したこと,被告が速度違反で運転していた車両の助手席に同乗していたこと,被害者がシートベルトを着用していなかったこと,不着用が損害を拡大させる原因になっている可能性が高いことから,遺族の損害全体について4割の減額を認めました。
大学生である被告の両親に対する監督義務違反も主張されました。裁判所は,被告と同居していなかったこと,被告に非行歴はなく両親は無免許運転をしていたことを知らなかったこと,両親は被告の外出を知らなかったこと,本件車両は被害者の父親所有であること,被告は事故当時右足にギプスをしていたことなどから,無免許運転をして本件事故を起こすことを予見することは困難であったなどとして,両親への請求を退けました。
17. 京都地裁平成25年7月25日判決(自保1911)
12と同じく後遺障害(程度は14級神経症状)を負ったものの減収がない公務員について,「現実には,本件事故後も給料面で格別不利益な取扱いを受けていないことが認められない(る?)ことから,後遺障害逸失利益を認めることはできない」としました。反面,「前記後遺障害が存在するにもかかわらず,原告が通常業務をこなしていることについては,後記エのとおり,後遺障害慰謝料について斟酌すべきである」として,後遺障害慰謝料を150万円(赤い本基準は110万円)認めています。
裁判所は,14級の神経症状については労働能力喪失期間を5年程度しか認めないことが多いので,このケースの場合は,原告主張の年収額(633万2400円)を前提にすると,×0.05×4.3295=137万806円ですから,プラス40万円はこの3割程度ということになります。
18. 名古屋地裁平成25年7月26日判決(自保1909)
走行中スリップして対向車線に進入し,大型貨物車と衝突して死亡 した男性の遺族が,人身傷害保険金の支払いを求めました。約款は「酒気を帯びて(道交法65条1項違反またはこれに相当する状態)自動車または原動機付自転車を運転している場合に生じた損害」を免責としています。
道交法上65条1項は「何人も,酒気を帯びて車両等を運転してはならない」と規定していますが,ここに「酒気を帯びて」とは,本判決によれば「社会通念上酒気を帯びていると言われる状態,すなわち,その者が,身体にその者が通常保有する程度以上にアルコールを保有していることが,顔色,呼気等の外観上認知できる状態にあることをいい(注:「執務資料 道路交通法解説」も同じ),同条項は,政令数値(注:血中アルコール濃度0.3㎎/mℓ,呼気アルコール濃度0.15㎎/ℓ)以上の酒気を帯びていたことを要件とするものではない。」とされています。そのうえで「本件免責特約は,酒気を帯びた状態での運転のうち,アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転を免責事由とする趣旨であると解するのが相当である。」とした(約款文言の制限的解釈)点が注目されます。
男性の血中アルコール濃度は0.2㎎/mℓでしたが(数値の信用性も争点になっています),突然横滑りして対向車線に進入したという運転態様の不自然さから「飲酒の多寡はともかく,アルコールの影響が顕著に残存した状態にあって,運転手としての注意力や判断力等が明らかに低下した状態にあったと推認される。」として免責としました。
なお,「飲酒運転」免責としては,かつては酒酔い運転免責が一般的でしたが,現在では全社が酒気帯び運転免責に免責範囲を広げています。さらに酒気帯び運転免責においても,政令基準値以上を免責とするものは少なく,多くは本件約款と同様の条項です。
19. 広島高裁平成25年7月26日判決(自保1904)
二重轢過の死亡事案です。被害者は歩行中1台目に轢過され(加害車は逃走),約9分後に2台目に轢過されました。共同不法行為が成立すれば2台目の運転者に全損害を請求できます。裁判所は,第2事故の時点では被害者は死亡していたと推認されるから,第2事故との間に相当因果関係はないとした1審判決(広島地裁平成25年2月15日)を支持して控訴を棄却しました。道路や2台目の車両に残された痕跡から,第1事故が致命傷だったという認定です。
20. 東京地裁平成25年8月6日判決(自保1908)
13の裁判例と同じく自転車による歩行者への加害事故です。問題は加害者が自転車便の運転手で,自己所有の自転車で会社事務所に向かう途中の事故だったことです。原告は自転車便の会社を被告として使用者責任を主張しましたが,被告は①雇用関係はなく請負であるから「使用者」にあたらない,②通勤中であることなどから業務執行中ではない,と主張しました(運転者とは示談済み)。
裁判所は,①については無線機の携帯などにより実質的に指揮命令関係があったとして肯定し,②についても,事務所へは無線機借り受けのために赴く途中であったこと,当該自転車を使用して稼働すること及び事務所との往復に使うことを容認・黙認していたと認められること,当該自転車の整備等について便宜を図っており同自転車の使用により利益を享受していたと認められること,から肯定し,自転車便会社の使用者責任を認めました。
本件自転車はロードレーサーで,赤色信号に気付かないまま横断歩道を歩行中の被害者に衝突し,被害者は1級相当の高次脳機能障害を負いました。13の裁判例とともに自転車事故の恐ろしさを考えさせられる事例です。

H25の裁判例 21~30

21 東京地裁平成25年8月26日判決(自保1907)
原告は交通事故による損害賠償請求訴訟を弁護士に依頼し,判決を得ました。原告は,加入する保険会社に,委任契約による弁護士報酬額は327万円で,着手金10万円が既払いなので保険会社は317万円の支払義務がるとして,限度額300万円から既払いの訴訟提起手数料を控除した271万6000円の支払を求めました。
約款は,被保険者に支払った保険金の返還を求めることができる場合として,判決に基づき被保険者が賠償義務者から弁護士費用の支払を受けた場合で,判決で認容された弁護士費用の額とすでに払われた保険金の合計額が,被保険者が弁護士に支払った費用の全額を超過する場合と規定しています。
裁判所は,約款がそのように規定していることから,保険会社は,賠償義務者が被保険者に判決で認定された弁護士費用を支払った場合の弁護士費用の額とすでに支払った保険金の額の合計額が,被保険者が委任契約により弁護士に支払った費用の全額を超過する場合は、保険会社に保険金の支払義務はないとしました。判決で認定された弁護士費用を支払った場合の弁護士費用の額と訴訟費用の額の合計は547万円余りで,既払いの保険金額(訴え提起手数料)との合計額は576万円余りです。他方,被保険者が委任契約により弁護士に支払うべき費用の全額は317万円とのことで,訴え提起手数料を加えると355万円余りとなります。とすれば賠償義務者により既に支払われた額+すでに支払った保険金>委任契約により支払義務があると主張する額(576万円余り>355万円余り)となるからです。
弁護士費用特約の有無を確認することは当然ですが,委任契約の内容にも注意しなければなりません。
22 大阪地裁平成25年8月29日判決(自保1914)
無職者については,逸失利益はともかく休業損害は認められないことが多いのですが,期間中に就職できた蓋然性があれば認められる場合があります。本件(事故時30歳男性,併合11級)では,事故がなければ事故3か月後にあたる時期には就職できていたはずだという主張を退けつつ,職歴や症状固定後現に就職していること等に鑑み,事故8か月後から,年齢別平均賃金の75%をもとに休業損害を認めました。逸失利益は前職の90%を基礎に認めました。
被告は,脾臓摘出(13級)は本来労働能力に影響しないと主張しましたが,裁判所はこれを退けました。ただし他の後遺障害が神経症状であることから,馴化する面もあるとして,労働能力喪失率につき15年は20%(11級相当)としたものの,その後は9%(13級相当)としました。
23 東京地裁平成25年9月13日判決 (自保1910)
MTBI(軽度外傷性脳損傷/軽傷頭部外傷)が問題になった事案です。異議申立の結果,脳挫傷痕が認められるとして高次脳機能障害7級等が認められましたが,被告は継続する意識障害と脳萎縮・脳室拡大の画像所見が必須であるとして争いました。
裁判所は救急隊と病院の記録から継続的な意識障害を否定し,ヘモジデリン沈着は外傷性くも膜下出血で説明でき,DTI(拡散テンソル画像)とSPECT(放射性同位元素を用いた脳血流検査)は外傷性脳損傷の発見において評価が固まっていないうえにこれら症状がびまん性軸索障害(損傷?)に特異な所見であるということもできないとして脳の器質的損傷の裏付けとなる画像所見もないとし,外傷による高次脳機能障害を否定しました。そのうえで,原告には事故から3年半以上が経過した時期の知能検査で知能低下が見られ未だ回復傾向が認められないこと,運転手の職を続けられず精神的な落ち込みが目立つこと,被告提出の医師意見書にも非器質的な精神障害が示唆されていること等から,12級に相当する非器質性精神障害(併合9級相当)と認定しました。
頭蓋骨骨折と外傷性くも膜下出血がある事案であり,MTBIの後遺症認定のハードルの高さを感じます。「脳外傷による高次脳機能障害においては,通常,急性期の状態が最も悪く,時間の経過とともに軽減傾向を示す」と裁判所が指摘しているところをみると,いったん症状が軽くなってその後悪化したのではないかとみているのではないかと推測されます。
24 大阪地裁平成25年9月24日判決(自保1913)
CRPS(複合性局所疼痛症候群)の主張に対して,裁判所は,医療機関での診療においてはCRPSまたはその疑いのある症例として対処するのが相当であるが,後遺障害の有無を判断する指標としては労災認定基準(関節拘縮,骨萎縮,皮膚の変化の慢性期の主要3症状)によるべきであるとして,これを否定しました。そのうえでギボンズスコア9項目のうち5~6項目を満たしていると評価されること,3名以上の医師がCRPSと診断していることことに照らすと,他覚的所見を伴う「頑固な神経症状を残すもの」として12級13号に該当するとしています。労災認定基準(自賠責基準)のハードルの高さを思い知らされます。
25 大阪地裁平成25年9月26日判決(自保1917)
高次脳機能障害においては後遺障害5~7級でも将来介護費用が認められることがあります。裁判所は,高次脳機能障害5級,肩関節機能障害等との併合4級の後遺障害を残す被害者について,近親者による介助・見守りが必要であるとして日額3000円の将来介護費を認めました。自宅改造費についても,手すり設置費用の全額とその他の改造費の5割にあたる約470万円を損害と認めました。現状のまま2階で生活することの危険と困難が考慮されています。
26 名古屋地裁平成25年10月24日判決(自保1915)
高速道路走行中に追突されて頸椎捻挫等の傷害を負った被害者がPTSD様の症状を発症し,事故から1年3か月後に自殺した事案です。PTSDの症状として再体験症状(フラッシュバック等),回避・麻痺症状,覚醒亢進症状が挙げられますが,被害者には事故直後からの失声,フラッシュバック,自動車乗車による気分の悪化,不眠等の症状が認められました。裁判所は事故による心的外傷を契機として少なくともPTSD様の症状を発症したとして,精神疾患の発症と事故との相当因果関係を肯定しました。さらに,事故直後に,加害者の過失は明らかであるにもかかわらず損保担当者が治療費の支払対応をしないことを通告したことについて,「著しく適切を欠く言動」だとし,このことにも鑑みると死亡前の損害について素因減額すべき事情はないとしました。
死亡による損害についても,交通事故によって精神疾患を発症した者が自殺に至ることが異常な因果経過と言えないこと等から,事故との相当因果関係も肯定しましたが,自殺も自らの意思であること,自殺を決意する心理の形成には被害者の発言やその背景にある心理ないし性格傾向も相当に影響したと考えるのが自然である等として,70%を減額しています。いじめ自殺や過労死自殺についての裁判例を思い起こします。
27 さいたま地裁平成25年10月31日判決(自保1913)
5級高次脳機能障害について日額2000円の将来介護費を認めました。高次脳機能障害においては3級以下でも将来介護費用が認められることが少なくありませんが,多くは3級の事案で,5級以下で認めた例は多くありません。喜怒哀楽が激しく,我慢ができなくなり,常にイライラするようになったこと,歩行や立ち上がりは何かにつかまればできるものの,動作が大きく性急で大きくふらつくことがあるため見守りが必要であること,そのため家族が常に原告の行動に注意を払い見守ることを余儀なくされていることが理由とされています。
28 大阪地裁平成25年11月21日(自保1918)
追突による頸椎捻挫等で入院を含む約11か月間の治療が行われた事案で,被害者は事故直前までうつ病とパニック障害の治療をしていたこと,事故が軽微であること,事故による症状についてい医師は症状や治療期間にうつ病とパニック障害が影響している可能性があると回答していることから,これらの既往症が心因的素因として影響したと判断しつつ,減額は全損害の1割としました。接骨院施術費についてはその7割について因果関係を認めました。入院については既往症の悪化・再発の可能性は十分あったこと等から,事故との因果関係を認めましたが,入院にまでいたったことは心因的素因と生活環境が多分に影響したとして,入院治療費と入院雑費については別途9割を減額しています。
なお,人身傷害保険金について,被害者と保険会社との間で特段の合意がなかった以上,約款の定めは素因によって拡大した損害をも同保険でまかなうことは予定されていないとして,素因減額語の金額から人身傷害保険金を差し引いて認容しています。これに対し自保ジャーナル同号の大阪地裁平成25年10月3日判決は,そのような合意があったとして素因減額による原告負担部分から充当されるとしています。
29 大阪地裁平成25年11月25日判決(自保1915)
交通事故関係のHPを検索すると,その多くが行政書士によるものであることに驚きます。行政書士は損害賠償請求訴訟の代理人となることができないのはもちろん,被害者の代わりに損保と交渉することも「非弁活動」として禁止されています。にもかかわらず,あたかも交通事故事件の専門家であるかのように宣伝し,非弁活動によって報酬を得ています。このような行政書士の跋扈は,地方都市ではより目立つようです。「交通事故を弁護士の手に取り戻そう」と私が訴えている所以ですが,情けないことにそのような行政書士並みの仕事しかできない弁護士がいることも事実です。被害者側の弁護士も,もっと力を付けなければなりません。
それはさておき,本件は弁護士等費用特約に関するものです。本件の行政書士は,交通事故被害者から,交通事故相談の費用として,月額2万円(最初の月は3万円)を34か月にわたり受け取りました。このうち19万円は特約に基づき損保から支払われましたが,残額については支払われなかったため訴訟提起となりました(このほか搭乗者傷害保険金も請求されています)。裁判所は,損保から支払を受けた19万円の範囲を超えて,そのような長期にわたり,継続して行政書士に相談する必要があり,かつ,その相談の内容が行政書士の行える範囲のものであるとは認められないとして,保険金請求を退けました。
30 横浜地裁平成25年11月28日(自保1917)
PTSDという病名が診断書に記載されることは珍しくありませんが,賠償実務ではなかなか認められません。歩行横断中に右背後から貨物車に衝突された被害者について,自賠責は14級の非器質性精神障害等を認定しました。裁判所は原告の主張どおり12級PTSDを認めています。事故が軽微でPTSDの原因になるようなものではないとの被告の主張については,事故態様からそのように断じることはできず,「原告の主観としては背後から突然はね飛ばされ,生命にかかわるような大事故であった」としています。逸失利益は10年間,14%を認めました。
鍼灸院への通院についても問題となりましたが,通院期間が約1年と長引いていることなどから事故との相当因果関係を否定しています。
私はこんな弁護士です。弁護士 小野 裕樹
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高次脳機能障害
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脳の外傷が原因で起こる高次脳機能障害について私が力を入れるようになったきっかけや、どのような症状が現れるのか、障害認定における問題点、裁判の争点などを解説いたします。

取扱い事例
取扱い事例

私が実際に扱った、高次脳機能障害の事例を紹介いたします。事例ごとに被害の状況や事故の状態は異なり解決方法も違いますが、どのような事案があるのか、参考にご覧ください。

福岡交通事故弁護団

福岡交通事故相談室は私(弁護士小野裕樹)が代表を務める福岡交通事故弁護団と連携してます。福岡交通事故弁護団は、交通事故事件を専門に取扱っている、実務経験も豊富な交通事故相談の弁護士のチームです。情熱をもって、事故・事件に対応しております。私たちがどのような理念を持ち、交通事故事件と向き合っているのか、またどのような弁護士で構成されているのかをご紹介いたします。メンバー一人ひとりの詳細なプロフィールも掲載しておりますので、ご相談の前にぜひご覧ください。

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事故の慰謝料について
事故の慰謝料について

入通院、死亡・後遺症、精神的苦痛に対しては慰謝料の請求ができます。
交通事故の慰謝料について、どのような場合にどのくらいの金額が認められるかを「傷害慰謝料(入通院慰謝料)」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」のそれぞれに関して、慰謝料が通常より増額される場合などについて、わかりやすく丁寧にご説明いたします。

費用について
費用について

弁護士費用は、保険会社の示談提示がある場合や訴訟になった場合などで異なってきます。福岡交通事故相談室における弁護士費用に関して、ケースごとに詳細に掲載しております。
※弁護士費用特約がある場合、弁護士費用の負担が無くなるか軽減されます。

交通事故の重要裁判例